2022年1月30日  アバター共生社会の倫理セミナー・シリーズ 第3回開催のご案内(社会情報学専攻 情報哲学講座)

アバター共生社会の倫理 セミナーシリーズのご案内
 
第3回(2022年1月30日(日))
 
第3回はバーチャルYouTuberに代表されるアバターを利用する際の問題点とその解決可能性に関して、分析美学とポピュラーカルチャーの哲学を研究されている難波優輝先生と、法学者の原田伸一朗先生(静岡大学)のお二方にご講演いただきます。
 
日  時:2022年1月30日(日)15時から
 
会  場:オンライン(Zoom meetingを使用)
 
参加申し込み:https://zoom.us/meeting/register/tJUtd-isqT8iEtVA_dzOOkLYgd6j1RmRgSTu
 
プログラム(暫定):
  15:00-16:30 難波優輝先生講演(質疑応答含む)
  16:30-18:00 原田伸一朗先生講演(質疑応答含む)
 
講演タイトルと要旨
・難波優輝:「”わたし”に触れるな – バーチャルなアバターに対する危害行為は中の人をどう傷つけうるのか?」
  VRChatでアバターに対して性的な加害行為のような行為が行われる。
  バーチャルYouTuberに対して誹謗中傷に類する行為が行われる。
 これらは性的な加害行為なのだろうか、誹謗中傷なのだろうか? それとも、性的な加害行為のフリに過ぎないのか? 虚構のキャラクタに対する罵詈雑言のフリに過ぎないのか?
 
 仮想空間と現実空間とを問わず、アバターに対してなされる行為は、いつ、そのアバターを操作する中の人を傷つけるのだろうか? 本発表はこの問いを扱う。特に、この問いに答えるためには何を考えなければならないのか、倫理学と美学の観点から明確化することを目指す。
 
 ビジネス的な関心はこうだ。現在、Facebookがメタ・プラットフォームズに社名変更し、メタバース環境の構築を目指す事例に代表されるように、インターネットの次のプラットフォームづくりとして、メタバース構築に参入する企業が増えることは間違いない。そこで、運営するプラットフォームで倫理的な問題が起こった際に前もって対処できるような倫理的ルールづくりを行うことは企業にとって価値があるだろうし、ユーザーの利益を考える際にも重要になるだろう。また、やや特殊な業種にはなるが、エンタテイメント分野において、バーチャルYouTuber事務所がどのように所属タレントを保護するかについてもエンタテイメント法実務の観点からも若干の示唆を与えうるだろう。
 
 学術的な関心はこうだ。バーチャル環境における行為や、バーチャルYouTuberに対する発言のように、純粋に虚構的世界でなされるわけでも、純粋に現実世界でなされるとも言えない微妙なステータスを持つ行為の倫理性について考えることは、倫理学と美学の道具を用いて現実世界の問題をどう整理できるかが試される応用哲学的なトピックだ。こうしたトピックを説得的に扱えるかによって、倫理学や美学が法学やビジネスにおけるルール策定にどう関われるかが問われる。
 
 発表内容の予定としては、以下になる。Jeff Dunnが2012年にバーチャル環境における行為の道徳性を、同意、アバターとの同一化、遊びへの寄与という観点から論じている。このうち、アバターとの同一化に焦点を当て、分析美学におけるメイクビリーヴ・ゲームに関係する議論から、どのようなときに、どのような仕方でアバターとその中の人とが「同一化」しうるのか、図式を提示する。そこから、どのようなしかたで同一化がなされているアバターに対する危害行為がいわばアバターを貫通して中の人にまで危害を加えられるのか、哲学的再構成を行い、VRChatでの性的加害行為やバーチャルYouTuberへの誹謗中傷が一般的な意味で成立することを正当化してみる。
 
・原田伸一朗:「VTuber法:バーチャルYouTuberの法的地位および人格権の保障」
 
 バーチャルYouTuberは、その草創期、専らアバターが動いたりしゃべったりする技術として注目された。「人格」の分割・融合・拡張を可能にする未来技術の先行例として語られたりもする。しかし、VTuberは、単なるアバター技術として語られるにはとどまらない「文化現象」ともなっている。特に「中の人(配信者)」と「リスナー(視聴者)」との関係性・コミュニケーションを中核に、独特の「コミュニティ」が形成されていることは見逃せない。VTuberは、当初それを「キャラクター」とみなす傾向も強かったが、その「人格」や「身体性」はいまや無視できない要素となっている。このことが今後のアバター社会の法や倫理に示唆するところは大きい。
 
 アバターに係る法的権利の保障や、それが活動する「メタバース」のルール形成が必要であることはすでに言われているが、スローガンにとどめず、未来社会において発生し得る問題を予測し、それに対応できる具体的な法律論(問題予測法学)を展開しなければならない段階に来ている。ムーンショットが想像=創造する未来と、VTuberの展開が必ずしも重なるとは限らないが、アバター共生社会の到来を見据えて、差し当たり現在のVTuber界隈においてどのような法的課題が生じているか、現行の法律論がどこまで適用できるか、足元を確認する機会としたい。
 
講演者紹介
難波優輝先生:1994年生まれ。美学者、批評家、SF研究者。修士(文学、神戸大学)。専門は分析美学とポピュラーカルチャーの哲学(バーチャルYouTuberとSF)。最近の著作に『SFプロトタイピング』(共編著、早川書房、2021年)、『ポルノグラフィの何がわるいのか』(修士論文)、「SFの未来予測はつねに間違っていて、だから正しい」(『UNLEASH』、2021年)、「キャラクタの前で」(草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』解説)。短編に『異常論文』収録「『多元宇宙的絶滅主義』と絶滅の遅延」(早川書房)。『ユリイカ』『フィルカル』『ヱクリヲ』『SFマガジン』などに寄稿。
原田伸一朗先生:静岡大学学術院情報学領域准教授。東京大学法学部卒業。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程修了。博士(情報学)。同志社大学法学部任期付助教(有期)、静岡大学情報学部・大学院情報学研究科講師を経て現職。専門は情報法、コンテンツ法。
 
 
 
 
 

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